時価総額
自己資本比率
経常増益率
ROE
予想PER
PBR
売上高成長率
総資産成長率
配当利回り
長期実績リターン
ベータ(市場感応度)
ボラティリティ
まったく同じ時点で投資しても、株式のリターンやリスクは、銘柄によって異なります。しかし、それらが相互にまったく無秩序・無関係に動くわけではありません。
同じ業種の企業は利益を生む構造が似ていることが多く、円高や原油高など、様々な経済事象の変化によって受ける業績への影響も類似し、株価が変化する方向が一致することも珍しくありません。
株式市場では、業種以外にも、同じような属性を持った株式が似たようなリターンやリスクの特性を示す例がよく見られます。そうした属性は投資の参考になるので、「投資指標」と呼ばれます。
国内だけでも何千とある株式を一銘柄ずつ全部見て行くのは、人間には不可能です。投資指標は、それらの中から一定の銘柄を絞り込んでいく際にも、また絞り込んだ銘柄を精査する際にも有用なツールとなります。
「賢者のポートフォリオ」で銘柄を選択する際にも、投資指標は有効です。ここで利用が可能な投資指標は12種類。以下では、それらの投資指標について、グラフを用いてその統計的な特性を紹介しましょう。
集計の基礎データとしたのは、過去378か月、1,300強の銘柄の投資指標値、リターンおよびリスクの実績値です。
時価総額
その会社の株を全部買うのにいくら必要かを示す指標で、会社の規模を表しています。一般に時価総額の大きな銘柄を「大型株」、小さな銘柄を「小型株」と云います。
会社が発行している株式数に株価を乗じて計算されます。
時価総額と投資のリターンやリスクとの統計的な関係は次の通りです。
(1)時価総額とリターン
各銘柄の毎月末の時点での時価総額とその後のリターンのデータを用意し、その大きさに応じて、時価総額を5つ、リターンを4つのグループに分けて集計したものが下のグラフです。
最初の12か月リターンのグラフでは、ほんの若干ながら、時価総額の順位が最も低い株式のグループにリターンの高い銘柄が多かったことが見てとれます。次のグラフで、リターンの期間が60か月と長くなると、時価総額順位の低い株式グループにリターンの高い銘柄が若干多いという現象はほとんど見えなくなります。
「黒の館」の「市況悪化の1年」と「好況下1年」のそれぞれの期間に該当するデータを抜き出してみましょう。
市況が悪化する局面では時価総額の大きな「大型株」が好まれ、好況下の局面では時価総額の小さな「小型株」にも買い意欲が広がる様子が想像されます。
普通の双六に用いるサイコロはどの目も出る確率は同じですが、このゲームでは、投資指標を参考に少しでも確率の高いように5銘柄を選ぶことが可能です。
(2)時価総額とリスク
「黒の館」、「緑の館」、「赤の館」では、リスクの大きなポートフォリオを作るとペナルティが発生します。
ペナルティを避けるためには、リスクの大きな銘柄ばかりでポートフォリオを作るのは避けるべきです。
では、時価総額とリスクとにはどのような関係があるのでしょうか?
グラフを見てみましょう。
「時価総額が小さいグループほどリスクが大きい」という関係がきれいに見られます。経済事象の如何によって業績が大きく変動するという小企業の特性が、投資リスクという形で表れています。
自己資本比率
この指標が小さい会社は借入金に頼る度合いが大きく、金利の動きに敏感です。この比率が低いと経営が不安定になりやすいですが、自己資本(純資産)を効率的に使って成長しようとしているとも解釈できます。
見方を変えれば、自己資本比率の高い銘柄は経営が安定している(「安定株」と呼ばれることもあります)反面、成長性が低い可能性があるとも解釈できます。
自己資本比率は、企業の純資産を総資産で除して計算されます。
自己資本比率と投資のリターンやリスクとの関係は次の通りです。
(1)自己資本比率とリターン
各銘柄の毎月末の時点での自己資本比率とその後のリターンのデータを用意し、その大きさに応じて、自己資本比率を5つ、リターンを4つのグループに分けて集計しました。
グラフは、上が全期間、下が「黒の館」の「ショックを受けた1年」の期間のデータを集計したものです。
自己資本比率の高い株式グループは、それが低いグループに比べて若干ながらリターンの高い銘柄が多いようです。「ショックを受けた1年」では、特に自己資本比率の高い銘柄が好まれる傾向にあったと想像されます。
(2)自己資本比率とリスク
次に、自己資本比率とリスクとの関係を見てみましょう。
自己資本比率が低い株式グループにはリスクが大きい銘柄が多いようです。しかし、自己資本比率が高いからといってリスクが小さいとは一概には言えなそうです。意外なことに、自己資本比率の順位が最も「低い」株式グループには、「やや低い」グループよりもリスクの小さい銘柄が多かったようです。
経常増益率
会社の通常の事業活動で得た利益の伸び率です。ここでは過去2年の平均的な伸び率の順位で、その会社がこれまでに見せた成長性を示しています。
経常利益はマイナスになることがあり、伸び率の計算はややトリッキーです。ここでは経常利益額のランキングの変化を統計的に処理して経常増益率の代替指標としています。
経常増益率と投資のリターンやリスクとの関係は次の通りです。
(1)経常増益率とリターン
各銘柄の毎月末の時点での過去2期の決算における経常利益の増加率とその後のリターンのデータを用意し、その大きさに応じて、経常増益率を5つ、リターンを4つのグループに分けて集計したものが下のグラフです。
過去2年の経常利益の伸び率とその後1年のリターンとには、全期間の集計では明瞭な関係は見られません。経常利益の伸び率は投資家に関心の高い指標であり、伸び率が高くなると見込まれた時点でその情報は株価に反映されてしまうと考えられます。過去の伸び率が相対的に高い銘柄の今後の成長トレンドが強くなるか弱くなるかという投資家の見立ては、全体としては中立的という解釈もできます。
ただし「黒の館」の「好況下の1年」の期間では、経常増益率順位の高いグループにリターンの高い銘柄が若干多いように見えます。好況時ですので、過去の利益の成長が将来も続くと楽観的に捉える投資家が多いのかもしれません。
(2)経常増益率とリスク
経常増益率とリスクとの関係を以下のグラフで見てみましょう。
経常増益率は、リターンとの関係はやや希薄に見えましたが、リスクとは一定の関係があるようです。上記のグラフで見る限り、経常増益率順位が「高い」と「低い」の両端のグループにリスクの大きな銘柄が多く存在します。業績のブレが大きな銘柄が両端のグループに多く属しているとも解釈できます。
ROE(自己資本利益率)
会社がその純資産(自己資本)に対してどれくらいの利益を挙げたかを表す指標です。株主の立場からは、自分たちの投資した資金に対して効率良く利益を挙げてくれているかを確認する指標となります。この指標が持続的に高い会社は確固たるビジネスモデルを持っていると考えられ、「優良株」と言われます。
企業の各時点で直近の当期純利益を純資産で除して計算されます。
ROEと投資のリターンやリスクとの統計的関係は次の通りです。
(1)ROEとリターン
各銘柄の毎月末の時点でのROEとその後のリターンのデータを用意し、その大きさに応じて、ROEを5つ、リターンを4つのグループに分けて集計しました。下のグラフは、そのうちの「黒の館」の「市況悪化の1年」と「市況改善下の1年」の期間の集計結果です。
市況の悪化時にはROE順位の低い銘柄のリターンは低いようですが、市況が改善基調にある時にはROE順位の低いほどリターンが高いという緩やかな傾向が見られます。株価市場が上昇基調にある時には、ROEの低い銘柄にはむしろ伸びしろがあると楽観的に見る投資家が多くなるのでしょうか?
(2)ROEとリスク
ROEとリスクとの関係はどうでしょうか? 以下のグラフに、その関係を見てみましょう。
ROEの最も低い企業グループにリスクの大きな銘柄が多いようです。
ここで注意したいのは、「リスクが大きい=値下りする」ではないことです。先に見たように、ROEの最も小さなグループのリターンはそれほど顕著には低くありませんでした。リスクのグラフが示しているのは、ROEの最も小さなグループには、その後の株価の変動が大きかった銘柄が多かったということだけです。もっとも、リスクにペナルティが発生するこのゲームでは、こうした銘柄は避けたほうが無難ですね。
予想PER(予想株価収益率)
投資指標の中には、株価の割安・割高の度合いを見る「バリュエーション指標」というものがあります。予想PERもその一つです。1株当たり純利益の予想に対して株価が何倍になっているかを他の銘柄と比較することで、倍率が高ければ株価は割高、低ければ割安と見るというわけです。予想PERの低い銘柄は「割安株」と言われることがあります。
分母となる純利益には、当期の当期純利益の予想値または来期の予想値が用いられるのが通常です。
この指標を利用する際に注意が必要なのは、投資家が何を見てその株式を取引しているかということです。来期よりも先に利益の大幅な成長が見込まれるような銘柄は、例え現在の予想PERが高くても、株価は割高とは言えません。ここでの予想PERは、むしろその銘柄の将来利益の成長性を表しているとも解釈できます。逆に、その後の利益に大幅な低下が懸念されるような銘柄は、予想PERが低くても割安とは言えません。
予想PERは投資のリターンやリスクとの間に次のような統計的関係を持っています。
(1)予想PERとリターン
各銘柄の毎月末の時点での予想PERとその後のリターンのデータを用意し、その大きさに応じて、予想PERを5つ、リターンを4つのグループに分けて集計したものが下のグラフです。
予想PERの低い銘柄のグループには、その後のリターンが高いものが多いという結果になっています。
予想PERの低かった銘柄をその後5年間保有し続ける場合でもリターンの高いものが多いというのは、多くの方にとっては意外な結果かもしれませんね。これは、割安な銘柄の中には、その割安状態がなかなか是正されず、正常な株価にいつまでも戻らない銘柄があることを示しているとも考えられます。
「割安銘柄には割安なりの理由がある」と勘ぐる投資家も多いので、割安銘柄は放置されることも多いのです。割安株が活性化するには、その状態を変化させる何らかの材料(「カタリスト」と呼ばれます)の発現が必要だと言われることもあります。
もう一つの例を見てみましょう。「黄の館」の「大幅な円高」局面と「黒の館」の「ショックを受けた1年」です。そうした局面で悲観的になった投資家には、それまでは「割安」に見えた銘柄が「株価が低いには低いなりの理由がある」銘柄に見えるようになるのかもしれません。
上のグラフは、予想PERの低い銘柄への買い意欲が失せているようにも見えます。
(2)予想PERとリスク
予想PERとリスクとの関係を見てみましょう。
左から4本の棒はやや左肩下がりで、予想PERが高いほうのグループにリスクの大きな銘柄が多いという傾向、すなわち割高な銘柄ほど株価の変動が激しいことを示しています。予想PERが最も高いグループの銘柄には、割高な株価が是正される動きで変動性が高い銘柄が多いと解釈できます。
しかし、予想PERが最も低いグループにリスクの小さな銘柄が多いかというと、そうはならないようです。予想PERが「やや低い」グループに較べると、割安が是正される銘柄が多いことを示しているのかもしれません。
特殊な時期として「黒の館」の「バブル崩壊下の1年」の期間を見てみましょう。予想PERの高い銘柄の株価の不安定性が顕著に高いリスクとして表れています。バブルの崩壊で割高と思われる銘柄への悲観論が台頭した結果と思われます。
PBR(株価純資産倍率)
PBRは、予想PERと並ぶ、代表的なバリュエーション指標です。
「純資産」はその企業に投資した株主に帰属する財産の帳簿上の価額を示すもので、英語では簿価を意味するBook Valueという言葉が使われます。前述の時価総額が時価、純資産が簿価という関係があります。
1株当たりの時価総額である株価を、1株当たりの純資産で割ったPBRは、株主に帰属する財産の時価を簿価で割ったものとなります。
純資産は会計上の解散価値ですから、PBRは、その企業の時価が解散価値の何倍になっているかを表す指標でもあります。
PBRの低い銘柄は一般に「割安株」と言われます。ただし、株価が将来の大幅な赤字や倒産の危険性を見込んでいる場合には、PBRがたとえ低くても割安とは言えないことがありますので、注意が必要です。
(1)PBRとリターン
各銘柄の毎月末の時点でのPBRとその後のリターンのデータを用意し、その大きさに応じて、PBRを5つ、リターンを4つのグループに分けて集計しました。
PBRが低いほうのグループに、リターンが高い銘柄が多く、リターンが低い銘柄が少ない傾向が見られます。この傾向は、12か月リターンよりも36か月リターンで強く、60か月リターンになると弱まってくるようです。
この傾向が当てはまらない時期もあります。「黄の館」の「大幅な株高」局面を抜き出して見てみましょう。株式市場が堅調で、相場が楽観的観測に支配されるような状況では、PBRから見た割高な銘柄にも買い意欲が広がるようです。グラフに右肩下がりの傾向が見られません。